クビアカツヤカミキリ被害拡大は季節風の影響
公開日:2025年12月11日 最終更新日:2025年12月11日
1.クビアカツヤカミキリの成虫は風に運ばれ被害地を拡大している
クビアカツヤカミキリ(以下クビアカと表記する)成虫の飛翔能力は低く、自力による長距離移動は20~30mとされ、年間(成虫期間中・寿命1ヵ月以下)の飛翔による移動距離は、平均的な値で約 1.4〜2 km程度とされていることから見て、現状の被害拡大状況は、クビアカが自力で飛翔し拡大しているようには見えない。
下記群馬県の資料での拡大実績からみても、クビアカ成虫は年間約10km以上飛翔していることになり、例えば令和7年に成虫が確認された水紀行館~令和6年成虫が確認された沼田公園は、直線距離でも20km強あり、他地区も同様に成虫が飛翔できる距離ではなく、車に乗って移動するにしても被害拡大地域数が多く不自然である。
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2.クビアカ成虫は6から8月に樹から脱出拡大する
クビアカ幼虫は樹木の内部で成長し、産卵から2年後に成虫になることが多いとされてる。その後、成虫は一般的に6月から8月頃に樹木から脱出し、次の産卵のために新たな樹木を探して移動する。
樹木からの脱出ピークは6月末から7月中旬であることから、「6月から8月の風向き、風速がクビアカ拡散に大きく影響する」。と言える。
2.1 高崎市周辺の7月から8月の代表的な風向き
梅雨明け後、関東平野には、発達した夏の太平洋高気圧の影響により、強い南風が流れ込み、風は神奈川→東京→埼玉→郡馬(太田市と流れ、太田市付近で、男体山・赤城山等の山々に遮られる結果、宇都宮方面と高碕方面に分かれ、高崎、沼田付近で、谷川岳、妙義山、浅間山に遮られ、風に乗って来たクビアカは、群馬県で濃縮され、被害が急増して現在に至っていると推定できる。
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2.2 南関東6~8月の代表的風向き
東京管区気象台から資料を取り寄せ、梅雨明け後関東平野の風の流れについて聞いてみた。梅雨明け7月に関東地方が太平洋高気圧に覆われた際、一般的の風向きは南又は南西の風となる。
クビアカ脱出ピークの6月末から7月中旬は南東の風となり、太平洋から吹き上げた風にクビアカが乗って群馬県の太田市方面へと北上して行くと考えられる。
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下図は東京の風向きを示し、6~8月は南風、太平洋から関東北部へ吹き上げていることが分かる。
※ クビアカ成虫の活動は、6月から8月で、6月末から7月中旬がピークとなる為に、この時期の風向き確認が重要となる。
※東京は5月から8月にかけて南風が吹き、クビアカの活動時期と重なる。

3.クビアカ発生地から関東北部への急激な被害の広がり
日本におけるクビアカ成虫の最初の確認は2011年(平成23年)に埼玉県草加市で、被害の発生は2012年に愛知県で初めて確認された。被害はその後、日本各地に拡大し、2024年4月末までに13都道府県で確認されている。
関東における被害拡大傾向を見ると草加市で発生した被害は、埼玉県東部に広がり、その後、群馬県、栃木県に広がった。特に群馬県に侵入してから赤城山に遮られ太田市から栃木県足利方面と伊勢崎方面に分かれ、西毛方面にまたたく間に急拡大している。
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4.クビアカ被害は草加市から関東南部への広がりはきわめて遅い
東京のクビアカツヤカミキリ被害地は、2015年の初確認以来、発生地の草加市から近い福生市・あきる野市を皮切りに、羽村市、昭島市、八王子市、足立区、江東区、墨田区、台東区、港区、青梅市、日の出町など、多摩地域を中心に23区内にも広がっているが、関東東部、埼玉、群馬、栃木への被害の広がりから見ると極めて遅いペースとなっている。
4.-1 草加市から関東南部へは風に逆らい拡大しているため被害拡大ペースが遅い
クビアカ自力飛翔力は約 1.4〜2 kmで夏7月の南風(平均風速(m/s)12.6)から見ると、草加市を中心に関東北部方面は風に乗り、関東南部は風に逆らい飛翔しなければならない。その結果、関東南部方面への被害広がりは遅いと判断できる。
5.クビアカ被害の予測ができれば事前準備対策が可能である
草加市以北は予想以上に被害拡大が早く、対策が追い付いていないのが現状である。しかし、東京及び神奈川の未被害地も確実にクビアカ被害が拡大して来ます。初期の被害であれば、「生態を利用した樹内幼虫駆除」「樹幹薬剤注入」等で確実に駆除できるが、樹への 穿入数が多くなってしまってからだと、非常に困難の状態となってしまう。
これからは、被害地からの風向きを基本としての被害予測による初期対応が必要である。
6.ナラ枯れ被害を及ぼすカシノナガキクイムシも同様傾向が確認されている
神奈川県におけるナラ枯れ被害は、箱根、三浦半島方面から6~8月の風に乗り神奈川県全域に被害が広がり、その後多摩→秩父→郡馬方面へと広がり、現在、赤城山等上毛三山近辺の被害にまで移動又は拡大している。
季節風に乗って拡大する傾向はクビアカ、カシナガ以外の多くの昆虫でも見られる。
例えば、ヨコヅナサシガメ(写真)は中国・東南アジア原産の外来種で、クビアカと同じく、貨物に紛れて日本に侵入し、九州から本州、四国、さらに関東や東北南部まで急速に分布を拡大ている。主にサクラやエノキなどの大木に生息し、他の昆虫を刺して体液を吸う肉食性で、日本古来の害虫(ヒロヘリアオイラガなど)を捕食する益虫とも言える。
ヨコズナサシガメの分布拡大 傾向からも、やはり地球温暖化により、太平洋高気圧の勢力が増したことで、季節風がより強力になったことも影響していると考えられる。
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ヨコズナサシガメ
以上